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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、世界中でビジネスのデジタルトランスフォーメーション化(DX化)を推進する流れが加速しました。一方で「DXを推進する方法が分からない」「社内にDX人材がいない」とDX推進に難を感じている方も多いでしょう。

本連載では、DXの成功事例について、有識者にその進め方や課題などをインタビュー。第5弾となる今回取り上げるのは、訴訟手続きを行う裁判所や弁護士を含む法曹界全体のDXについてです。

公が絡む組織であること、非常に重たい守秘義務があること等、その特殊な業界特性から、強烈なアナログ文化が根付いていた法曹界。つい数年前までは、

  • 数十枚の書類をレターパックまたはFAXで送付
  • 相手の負担になるため、場合によっては、FAX送付前に電話で事前連絡を入れる
  • 10分程度の対応のために片道数時間かけて移動または泊りがけで裁判所に出頭

といったことも日常茶飯事だったそうです。

そんな法曹界が、2025年を目安に

  • 裁判所に出頭せずに、オンライン上で訴訟から判決までのプロセスが完結
  • 訴訟記録をクラウド上で管理し、時間や場所を問わず閲覧可能
  • 書面チェックの一部をAIツールが実施

などを実現し、業務効率を大幅に改善するまでに、どのような苦悩や工夫がなされてきたのか。弁護士法人 永総合法律事務所の代表弁護士 永 滋康 様に伺ってきました。

まず、DXの観点から法曹界の現状と問題点について教えてください。

法曹界の現状と問題について、①法曹界全体 ②法律事務所 ③裁判所の順でお答えします。

 1.DX普及前の『法曹界』

ビジネスにおけるDX化の流れは、弁護士や裁判所、検察官が属する「法曹界」にも波及しています。しかし、法曹界は単なる民間の組織ではなく、裁判所が絡む公共団体でもあります。その特殊性から、法曹界は他のビジネス業界とは大きく異なり、DXの観点で言うとかなり遅れています。

たとえば、官公庁である裁判所とのやり取りは資料を直接プリントアウトして郵送するか、せいぜいFAXを送信して提出するといったオフラインでの物理的なやり取りしか認めていません。 訴訟期日への対応についてもわずか10分程度の期日対応のために遠方の裁判所に片道数時間もかけて出頭しなければならないといった強烈なアナログ文化が今なお根強く残っている世界です。

 法律事務所についても、このような裁判所のアナログ文化に合わせた体制を余儀なくされているのがこれまでの現実でした。

ところが、このようなアナログでの訴訟手続しか認めていなかった法曹界は、2020年4月におけるコロナ禍での緊急事態宣言を受けて、全国の裁判所は進行中の訴訟手続の期日を全て取消してストップせざるを得なくなりました(刑事事件等は除く)。

新たに提起された訴訟手続についても全く進められず、事実上の機能不全を起こしてしまったのです。このような司法権が完全に機能しない状態は、2020年10月までの6か月間にもわたって解消されませんでした。

この危機的な事態を踏まえ、法曹界は改めてそれまでのアナログ的なやり方では適切な法的サービスの提供を維持できないと考えました。コロナ禍を機に、より一層スピーディーに法曹界全体で「DX化の推進を断行すべき」という認識が持たれるようになったのです。

2.DX普及前の『法律事務所』

DX普及前の法律事務所の実態については、主に次の5つのような特徴がありました。

法曹界(裁判所・法律事務所)のDX事例|アナログ 図解

(1) 顧客と直接の対面打合せ

弁護士は「弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う」との弁護士法第23条に基づき、重い守秘義務がある。そのため、弁護士が顧客と法律相談や打合せをする場所は、機密情報が外部に漏れないようにとの配慮から、顧客に法律事務所まで来てもらうことが一般的だった。

(2) 大量の資料作成と保管

裁判所におけるアナログ文化は非常に根強く、裁判資料についても郵送かモノクロで極めて画質の悪いFAXでの提出しか認めていなかった。そのため、訴訟当事者同士のやり取りは、大量の書類の送り合いに。

たとえば、毎回数十枚レベルの書類をレターパック等で郵送またはFAXして提出。いきなり数十枚もの書類がFAXで送られてきては先方も驚くので、場合によって「書類を今から送っても良いですか?」といった書類を送るための事前確認の連絡をしていた。

そして、送付された書類は分厚いファイルで保管して、裁判期日のたびに持参するというのが一般的な状況だった。

(3) 契約書等資料のチェック体制

顧客から求められた契約書等の内容チェックについては、担当する弁護士が関連する契約書や文献資料と照らし合わせながら、漏れた条項がないかなどを目視確認する方法が一般的だった。

(4) 論文や文献のリサーチ方法

訴訟案件で調べることが必要な法律論文や文献については、事務所の書庫にて所蔵されている文献を当たったり、国会図書館や弁護士会の図書館に行って収蔵されている論文等をプリントアウトしてリサーチしていた。

(5) 契約等の締結方法

当事者間の契約の締結についても、プリントアウトして製本化した契約書の原本2通をそれぞれ顧客と相手方に送付して記名押印して返送してもらう等の取扱いをしており、契約締結手続だけで短くとも数日を要するのが一般的だった。

3.DX普及前の『裁判所』

DX普及前の裁判手続については、主に以下の5つのような特徴がありました。

(1) 書類の作成

訴状や準備書面などの書類を期日の都度作成し、担当弁護士の職印を押して作成。

(2) 書類の提出

上記(1)で作成した書類と、関連する証拠資料などについて、プリントアウトした紙媒体で裁判所と相手方当事者に直接郵送またはFAXにて提出。

(3) 記録の保管方法

裁判の手続きにおいて当事者から提出された書類については、すべて紙媒体で保管。裁判の手続きが完了した後も、法定の保管期間中は裁判記録を紙媒体のままで保存する運用。

(4) 口頭弁論期日等への対応

各当事者は口頭弁論期日に毎回裁判所に出頭して対応する必要があった。遠方の裁判所でも例外ではなく、以前は泊りがけで期日に対応することも珍しくなかった。

法曹界では、DX化のために具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか?

法曹界(裁判所・法律事務所)のDX事例| 永様 挿入写真

こちらについても、各領域にて別々の取り組みがありますので、①法律事務所におけるDX化の取り組みと ②訴訟手続きを行う上でのDX化の取り組みに分けて、それぞれポイントごとに分けてご紹介します。

1.法律事務所を運営する上でのDX化の取り組み

法律事務所のDX化の取り組みについては、主に以下6つのような特徴があります。

(1) 顧客との打ち合わせ方法

顧客との打合せについては、コロナの影響もあり、直接面談の数は激減。代わりに、ZOOM等でオンラインミーティングを実施する割合が大きく増加した。

 これにより、顧客の移動時間の短縮以外にも、地方在住の遠方の顧客開拓も容易に。また、毎回の打ち合わせ時間が短くなった上で、より頻繁にミーティングをする機会が増えた等の効果も得られた。

(2) コミュニケーションのデジタル化

打ち合わせ以外にも、対外的な顧客とのコミュニケーションツールとして、メールや電話以外に、チャットツール(Teams、Chatwork、slackなど)を用いることで、より緊密かつ気軽に弁護士に相談することが可能に。トラブルの兆候を早めにキャッチすることで、トラブルを未然に防止する等の効果が得られた。

事務所内のコミュニケーションでもチャットツールを用いることで、在宅ワークなどで事務所を不在にしていても迅速で正確な連携も可能に。

(3) 事件記録の作成と保管方法

事件ごとの大量の記録についても、PDFファイルなどの形式でデジタル化した上でDropboxやOneDriveやBoxなどのクラウドストレージ上に保管する形に。クラウドストレージ上で保管することで、担当弁護士以外の他のスタッフらもパソコンが使える場所であれば時間や場所を問わずクラウドにアクセスできるようになった。そのため、作成中の文書に関するWordファイルやExcelファイルや証拠資料など、最新データを共有することも可能。

クラウドストレージに余剰がある限り、事件記録についても半永久的に保存できる上、必要な時にはすぐに取り出せるため、利便性が飛躍的に向上。

(4) 契約書等資料のチェック体制

契約書のリーガルチェックにAIでのチェックを導入することで、形式的な条項漏れを素早く確認でき、チェックスピードの大幅な向上が図れるように。

ただし、現時点でのAIによる契約書チェックは、まだ精度が低くなるケースもある。形式的なチェックこそ素早いが、各当事者の立場に合わせた適切な条項の提案や経営判断に絡むような実質的なチェックまでは難しいのが現状。

それでも、形式的な部分についての初動チェックをAIが行うことで、全体の作業効率の大幅アップが期待できる。

※AIによる書類チェックは『非弁提携』の観点から問題視されているという課題があります。
こちらについては『DX化をより進めていく上での課題』で後述します。

(5) 論文や文献のリサーチ方法

案件における専門的な論文や文献のリサーチ方法として、オンラインでの判例検索サービスや法律文書閲覧サービスが続々と登場しています。これにより、いつでもどこでも必要な文献データベースにアクセスできる状況になりました。

(6) 契約等の締結方法

関係当事者間の契約締結についても、クラウドサインやドキュサインなどの電子契約サービスを用いることで、遠方の当事者同士であってもすぐに契約締結手続きを完了させることができます。

契約締結以外でも電子内容証明通知書や法人登記情報の発行手続きなど、これまで郵便局や法務局まで訪問して行っていたものがオンラインで直ちに対応できるようになりました。

 2. 訴訟手続を行う上でのDX化の取り組み

民事訴訟手続においては、2020年からWeb会議による争点整理手続が既に始まっていて、当事者(弁護士)は、Web会議を利用して裁判所や相手方とオンライン上で協議を行う運用がスタートしています。

そこからさらに発展し、2022年には民事訴訟手続のデジタル化のための法律(民事訴訟法等の一部を改正する法律)が成立しました。これにより、電子ファイルをシステムにアップロードするだけで、準備書面や書証の写しといった訴訟関連書類をオンラインで裁判所に提出することができるものとされました。

また、当事者は、インターネット環境さえあれば、時間や場所を問わずアップロードされた裁判書類を確認することができます。

現時点では、民事訴訟手続についてはまだまだ完全にオンライン化されるまでには至っていませんが、今後、民事訴訟手続きのデジタル化については大きく以下の3つのフェーズで進んでいくことが予定されています。

法曹界(裁判所・法律事務所)のDX事例|推進フェーズ 図解

(1) フェーズ1:WEB会議による争点整理手続

上述の通り、2020年より、当事者(弁護士)は、Web会議を利用して裁判所や相手方と協議を行えるようになりました。Web会議では裁判官や相手方の表情などを確認しながら協議することができるので、これまでの直接面談とほぼ同様に、安心して手続きが進められます。

この試みは2020年2月から一部の裁判所で試験運用が開始されましたが、2022年11月以降は支部も含めた全国の地方裁判所、高等裁判所で運用が開始されています。

また、2023年5月の時点では23の家庭裁判所本庁にて、家事事件(離婚事件や遺産分割事件など)についてもWeb会議の運用が開始していて、2023年度内には全国の家庭裁判所本庁に運用拡大していくことが予定されています。

(2) フェーズ2:Web会議による和解・口頭弁論期日の開催

2023年度後半以降は、公開の法廷もWeb会議で開催できるようになり、裁判所へ行かずに手続きに参加することができるようになります。

(3) フェーズ3:訴状のオンライン提出等

2025年以降は、訴状や準備書面などの訴訟書類がオンラインで提出でき、訴訟記録が電子データ化されてオンライン閲覧が可能になります。つまり、インターネット環境さえあればどこからでも裁判所に訴訟することができ、当事者は電子データ化された訴訟記録を自由に閲覧できるようになるということです。

実際に、現時点では裁判所に書類をオンラインで提出するためのシステムである「mints(ミンツ)」が一部の裁判所で試験運用を開始していて、利用できる裁判所は順次拡大されていく予定です。

 

民事訴訟手続は上記3つのフェーズを通したDX化により、各当事者は訴状等をオンラインで裁判所に提出し、口頭弁論期日等の手続には出頭せずにWeb会議で参加できるようになります。

そして、膨大な訴訟記録については電子データ化されたものをいつでもオンラインで閲覧できるようになる予定です。これにより、いちいち裁判所まで足を運ばなくとも、訴訟提起から判決に至るまで、オンラインのみで裁判手続を利用できるようになるのです。

法曹界が今後DX化をより進めていくための課題として、どのようなものが考えられますか?

法曹界におけるDX推進で課題として考えられる要素は2つあります。

1.機密情報を守り切る高度なセキュリティの確保

1つ目は、いかに顧客の機密情報を守れるか、裁判を受ける国民の機密情報を絶対に漏らさないようにするかという高度のセキュリティ確保です。

そもそも、法曹界が長年アナログ体制を貫いてきた最大の理由は、進化は早くとも欠点も多かったIT化の推進によって、裁判記録の情報や顧客の重要な機密情報が漏洩されるのを防ぐという守秘義務の遵守にありました。そのため、便利とは知りつつも、手放しですぐにITサービスを導入することができなかったのです。

2025年までに法曹界全体のDX推進が予定されていますが、法的サービスを便利に受けられるようになる一方、機密情報の漏洩等によって司法サービスに対する国民の信頼が失われては本末転倒です。そのため、情報の機密性を担保できるような高いセキュリティの確保がDX推進における課題と言えるでしょう。

2.『非弁提携』に抵触しないサービスの開発・導入

そして2つ目が、DX化に伴って導入されるリーガルテックサービスについて、弁護士法第72条が定める「非弁提携」に抵触しないように注意する必要がある点です。同条は、弁護士ではない者が報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務をビジネスとして取り扱うことを禁止するものです。

非弁提携に該当するか否かは、たとえば現時点では、弁護士以外の業社がAIによる契約書チェックサービスを提供することが非弁行為に当たるのではないかが問題となっていて、これについては一部法務省からも法解釈が示されています。

この点については、今後新たに作られるガイドラインや指針などのルール整備を含む法解釈の確立が重要な課題となっています。

弁護士法人 永総合法律事務所
弁護士法人 永総合法律事務所 ロゴ アイコン主に「中小企業の会社法務」、「不動産トラブル法務」、「寺社など宗教法人法務」の3つの領域を専門の柱として活動。弁護士として勝訴を積むことではなく、顧客に寄り添い、顧客が真に望む事案解決を志す。2021年1月設立と創業から2年半ほどにもかかわらず、書籍の出版や新聞・雑誌・WEBメディアへの多数の出演など、多方面から高い評価を受ける。代表弁護士 永氏が400年続く寺院の出自というバックボーンを活かし、寺社に特化した弁護士サービス「寺社リーガルディフェンス」でも知られている。
事務所HP:https://ei-law.jp/
寺社リーガルディフェンスHP:https://ei-jishalaw.com/

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