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DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集めている昨今、企業の中には「DXを推進する方法が分からない」「社内にDX人材がいない」といった課題を抱えている場合も多いでしょう。
本連載では、DX推進に成功した企業に、その進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第3回となる今回取り上げるのは、株式会社YE DIGITAL(以下、YEデジタル)様です。
「デジタルで、暮らしに明るい変革を」をミッションに、IoT事業を初めとするDX推進支援を中心に、様々な事業を展開しているYEデジタル様。1978年に大手電機メーカーのIT部門が分離独立して創立し、45周年を迎えた2023年の現在でも、次々と新たな挑戦をされています。
『IoT』という言葉が広まりだした2014年よりさらに10年前の2003〜2004年頃からIoTや事業に着手されていた同社ですが、もともとは製造業向けの支援が主軸でした。2020年を前に製造業で培った高い技術の適用をソーシャル市場に拡大し、「より社会に貢献できる事業を展開したい」と、農業・畜産業界などのDX支援も始められました。
時代を先どってIT技術の活用を進められていたYEデジタル様が、なぜ製造業から農業や畜産業に目を向けられたのか、農業・畜産業界のDX推進支援の最前線でどんな苦悩や工夫をされてきたのか。マーケティング本部 事業推進部 ソリューション担当部長 町田様、担当者の武田様に伺ってきました。
労働力が減少し続ける中で、生産量の維持が求められている畜産業
畜産業のDXに取り組もうと思われたきっかけは何でしょうか?
弊社は設立当初から製造業のお客様に向けたシステムの受託開発を行っており、2000年過ぎからは製造業向けに様々なIoTソリューションの提供を開始しました。その結果、製造業が求める高品質な技術やIoTに関するノウハウを豊富に蓄積することができました。そこで、製造業で培った高い技術の適用をソーシャル市場に拡大し、社会課題の解決を支援するソーシャルIoTに力をいれています。そのソーシャル市場で、特に着目したのが畜産・農業の分野でした。
特に畜産業の分野では、廃業する方が多く、労働力が年間100件、200件と、すごいスピードで減少しています。新しい人が入ってこないため、高齢化も急速に進んでいます。
一方で、労働力が減少し、後継者不足を解消するため経営が個人から企業化されるケースが増えているのですが、生産数は変わっていないんです。「じゃあ、生産性が上がってるってことじゃないの?」と思われるかもしれませんが、今でもかなりアナログだったり、非効率なことが非常に多いんです。たとえば、データの記録や管理が基本紙ベースだったり、ファックス文化が残っていたりですね。
こんな風に、人の食や生活に大きくかかわる重要な産業でありながら、人材不足だったり、業務の非効率性だったりと、様々な問題を抱えている畜産業を、弊社の技術力で手助けし、社会に貢献していきたいと考えたのがきっかけです。
支援対象を製造業から農業・畜産業に拡大される中で、どんなことから着手されたんでしょうか?
初めは、マンゴー農家さんがビニールハウス内を暖めるために使うボイラーの重油燃料を補給する作業を、より効率化するために作った燃料タンク残量監視ソリューションが始まりでした。
重油燃料タンクは、ビニールハウスの数に合わせて併設するように配置するため、たとえば当時担当していた宮崎県の事例では、西都市地域にある1,500タンクを補給するために各地域・タンクを毎日巡回して、目視で確認していました。空タンクがあれば「入れてください」と農家さんから要請があり、その農場のためだけに給油車を出動させたりと、非常に非効率な運送をしていました。
そこで、各燃料タンクに機器を設置するだけで、スマホやタブレットで残量が確認できるソリューションを開発しました。タンクの残量をAIが判断して、最適な配送ルートを計算・案内する機能も付けました。これによって、配送業務にかかる経費を4割削減することができました。これが、初めて農業・畜産業の分野で行った支援でした。
導入開始から約1年で258農場に展開された『Milfee』について教えてください。
現在弊社では飼料タンク残量管理ソリューション「Milfee(ミルフィー)」を開発し、提供しています。豚や鶏、牛などの農場に設置されている飼料タンクの蓋の内側に「Milfee」端末を取り付けることで、見えない飼料タンクの残量を計測して、クラウド上にデータを送信し管理できる仕組みで、提供開始以来、高い評価をいただいています。2022年7月の導入開始から23年の4月までに牛157農場、豚34農場、鶏67農場で計258農場に展開しました。
実は、前述のマンゴー農家様の案件で開発した重油燃料タンクの残量測定・通知技術を、牛・鶏・豚などの餌となる飼料が入っているタンクに応用したものです。
重油燃料タンクの残量確認と同様、飼料のタンク残量も目視で確認されています。飼料のタンクは5~6mとかなり高いため、ハシゴを登る必要があり、手間がかかる上に危険が伴う課題のある作業の1つでした。
また、飼料メーカー・配送業者の視点でも、飼料タンクの目視確認には問題があります。目視確認は、手間がかかる分、頻繁に確認されないため、気づいたときには飼料が切れているということも多々あり、突発的に飼料発注が来ることも珍しくありません。そのため、メーカーは飼料を計画的に製造できず、効率の良い輸送計画が立てられない問題がありました。
そういった問題を解決するために、農場に設置されている飼料タンクの蓋の内側に「Milfee」端末を取り付けることで、クラウド上で畜産農家、飼料メーカー、飼料配送業者それぞれが、飼料残量を確認できるソリューションを開発しました。
これにより、飼料残量の巡回確認不要、突発発注の削減、飼料製造・輸送の効率化など、飼料メーカー・配送業者・畜産農家にとってメリットがある製品になります。
参考:「飼料残量の見える化」で愛媛県の大規模養豚農場、毎朝の巡回確認・毎月の棚卸作業が不要に!
参考:「飼料残量の見える化」で宮崎県の養鶏関連輸送業者、餌切れによる突発注文ゼロを実現!
Milfeeが発売されるまでの苦労
開発の際に苦労したことはありますか?
開発時に苦労したことは、液体の燃料と、粉や粒の飼料とでは計測の仕組みがまったく違ったことです。また、従来の他社製品では計測できなかった、「マッシュ」とよばれる粉状の飼料を、どのように精度よく計測するかという壁もありました。弊社もありとあらゆるタイプの超音波を試しましたが、どれも上手くいきませんでした。
そこで、赤外線で計測する方法を見つけ出し、タンク内の真下と側面の2カ所に赤外線を当てる赤外線センサーを採用しました。その試作機を製品化するには、農場での検証が不可欠だったのですが、幸い「畜産分野の課題を解決する製品だ」と考えていただけるお客様のご協力により、十分な検証を重ねることができました。
マンゴー農家様の案件で開発した燃料タンク残量監視ソリューションを応用すればスムーズに行けるかと思って着手したところもあったのですが、商品化までにかなり苦労しました。
販売時にも、多くの困難を乗り越えたと伺いました。
多くの試行錯誤の末にようやく開発したMilfeeでしたが、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などの影響を受けて、販売時にも多くの困難を経験しました。
畜産業の経営において、飼料は販売原価の約6割を占めるほど大きな支出になるのですが、コロナ禍やウクライナ侵攻、国際物流の停止、大幅な円安など、様々な要因が重なって、飼料価格がそれまでの2倍近くまで膨れ上がったんです。これにより、売り先である畜産農家様の経営を大きく圧迫して「便利かもしれないけど、今は投資できるお金がない」と、断られるケースが相次ぎました。
また、飼料価格の高騰による農場の経営圧迫にくわえて、世界的な半導体不足もマイナスに働きました。やっとのことで開発した製品が、いざ量産する段階になって「半導体が不足していて、作れません」といった状況になって、納品日を過ぎても製造できない期間があったんです。
そんな中、転機となる要素がありました。
マイナス要因でもあった飼料費の高騰ですが「高価になったからこそ、より大切に扱おう」「管理をきちんとしよう」という流れが生まれてきました。飼料関係の支出には、運送コストも含まれるので「運送の最適化を図れるのは便利」とMilfeeを評価してくださる農場や運用会社が徐々に増えてきたんです。
そうやって様々な課題を乗り越えて、今は258もの農場に導入していただけました。
今後の展望について教えてください。
「日本の畜産を守っていきたい」というのが根底にあるのですが、Milfeeを介した具体的な展望が2つあります。
育成データの蓄積を通した生産効率の向上支援
1つ目の展望は、Milfeeを通して牛・豚・鶏の育成データを蓄積して、畜産農家様の生産効率の向上・生育方法の最適化を支援していくことです。
現時点でも既に北海道から沖縄まで幅広いエリアで導入が進んでいますが、これからさらに導入が進めば「この気候、この季節の時に、これぐらいのペースで餌を食べて、これだけ太りました」といったデータがより蓄積されます。データが貯まっていけば、ゆくゆくは「北海道で牛を育てる際は、こういう育て方をすれば、より生産効率が上がります」といった生産の最適化の支援が可能になります。
そのため、導入農場数をさらに増やして、導入済みのお客様にも、これから導入していただく方にもより便利で効率的なご支援を展開していくことが1つ目の展望です。
飼料を配送する配送業者の負担軽減
もう1つは、飼料を配送する配送業者の支援をさらに拡充することです。
配送業界には「2024年の壁」という業界全体が抱える問題があります。これは、2024年4月から働き方改革関連法が施行されることで、ドライバーの労働時間に新たな上限が生まれ、ドライバーの不足やそれに伴う配送コスト上昇が見込まれているという問題です。統計的な予測によると、このままでは現在の総配送数の約3割が配送できなくなるとの見解もあります。
そこで、運送の面からも日本の畜産を支えられるよう、今後も「Milfee」による、働き方改革・生産性向上で日本の農業・畜産の未来を繋いでいくことを目標に取り組んでいきます。
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